東京地方裁判所八王子支部 平成9年(む)13号 決定 1997年2月07日
主文
司法警察員が平成九年一月二一日に埼玉県川越市川鶴<番地略>申立人方で行った別紙二記載の各物件に対する差押処分を取り消す。
理由
一 本件準抗告申立ての趣旨は、「申立人に対する詐欺被疑事件について、平成九年一月二一日小平警察署警察員警部補乙川秋夫の行った押収を取り消す、との裁判を求める」というものであり、その理由の要旨は、本件押収に際して警部補乙川秋夫は、被疑者に別紙三の押収品目録交付書の該当欄記載のとおりの押収品目録を作成交付したが、右目録記載のダンボール箱、買物袋、アタッシュは、いずれも現実に押収した金銭消費貸借契約書等を収納した容器にすぎないから、これらを記載した目録の交付は違法である、また、現実に押収したものはいずれも被疑事実とは関連性がない、というにある。
二 そこで検討するに、
1 関係記録によれば、警察庁小平警察署所属司法警察員は、武蔵野簡易裁判所裁判官の発した申立人を被疑者とする詐欺被疑事件について、別紙一の「差し押えるべき物」欄記載の各物件を捜索差押の目的とする捜索差押許可状をもって、平成九年一月二一日に前記申立人方において捜索差押をしたこと、その際、同署所属司法警察員乙川秋夫は、ダンボール箱一、買物袋一等と記載された別紙三の押収品目録交付書記載の押収品目録を申立人に交付したこと、の各事実が認められる。
2 ところで、刑事訴訟法二二二条一項、一二〇条、刑事訴訟規則九六条によれば、令状の執行によって押収をした場合には、その執行をした者が目録を作り、所有者その他の者に、これを交付しなければならないところ、これは、押収目録によって、押収物を特定して何を差し押えたかを明らかにして、被押収者の財産権を保全し、押収の公正を担保するために要求されるのであるから、ある程度包括的あるいは概括的な記載は許されるとしても、捜索差押許可状に記載の差し押えるべき物との関連性が判断できないような記載は許されないと解しなければならない。
3 そこで、これを本件についてみるに、前記捜索差押許可状記載の差押対象物からすると、本件捜索差押に際し、司法警察員が別紙三の押収品目録交付書に記載のダンボール箱等の物品自体を差押の対象としたとは思われないが、右目録からは、何が差し押えられたかも判然とせず、また、捜索差押許可状に記載の被疑罪名や差し押さえるべき物との関連性も判然としないから、本件差押に際して交付された押収品目録は、押収品の適法な記載を欠くものである。
4 他方、関係記録中には、本件捜索差押に関して作成されたと思料される平成九年一月二一日付けの司法警察員作成にかかる捜索差押調書が存在し、同調書には、別紙二のとおりの根抵当権設定契約書類や領収書等を押収した旨の記載部分がある。この記載からは、本件捜索差押に際しては、すくなくとも同目録記載の物件を差押えたと判断せざるを得ないが、これと前記の別紙三の押収品目録交付書に記載のものとの関連性も明らかでない。
以上によれば、司法警察員が右のとおり現実に別紙二記載の各物件についてしたと推認される差押処分は、結局のところ、刑事訴訟法二二二条一項、一二〇条の前記趣旨に反するものというべきであって、違法であると断ぜざるを得ず、取り消しを免れない。論旨は理由がある。
よって、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官中野久利 裁判官綿引穣 裁判官松田道別)
別紙一〜三<省略>